3. ヴィンセント・レブラン Vincent Lebrun

ヴィンセントは、CRS で定期的に ACIM の Kirtan (キルタン)をしていただいている先生です。ベルギーはブリュッセル生まれで ACIM にはアメリカで出会い、現在はブルックリン在住、ベルギーに帰国の際は、フランス語版 ACIM でキルタン、ワークショップを行っているそうです。昨年十二月のホリディ・パーティでもすばらしい美声を披露してくださったので、ご存知の方も多いのではないかと思います。

キルタンとは、ヒンズー教のマントラ音楽のことです。音楽に合わせてマントラを繰り返し唱えることで、瞑想に入っていく心身の準備を整えます。ACIM のキルタンと言うとき、わたしたちがマントラの代わりに(またはマントラとして)使うのは、ACIM ワークブックのレッスンです。ピックアップしたレッスンのステートメントを、ヴィンセントのメロディ、演奏、歌のリードに従ってみんなで歌います。ひとりでページをにらみながら「わからない」と思っていたレッスンも、歌うと、なぜか「わかってしまう」ということがあります。 何がどうわかったか、言葉で表現できなくても、涙があふれてきたりするのです。それが、音楽の力なのでしょう。

けれども、ACIM のキルタン・サークルに満ちるエネルギーは、音楽そのものの持つ美しさと、ACIM の言葉が運ぶホーリネスのほかに、ヴィンセントの声にたたえられている真摯さのようなものが含まれていると感じます。彼の声には、なんというか、心の底から宇宙全体に向けて必死に訴えているような感じと同時に、幼子が母親か父親を呼んでいるような無邪気さと信頼感、気安さのようなものがあって、キルタンでは、その声にうっとりと包まれてしまうのです。パートナーのクリスティーヌも毅然とした美声でキルタンを支えています。

わたしにとっては、ヴィンセントはうんと年下の弟のように感じられる存在です。同時に、彼自身が大勢の弟、妹たちのいる兄貴分の持つエネルギーを持っているようにも感じるのです。なぜそのように、家族の絆、といったものを彷彿とさせるのかなと思っていました。定期的にセンターで顔を合わせているのに、落ち着いて話をしたことがなかったので、わたしが常々感じていることの秘密を明かしてもらうつもりでインタビューをお願いしました。

ー その声の秘密を知りたいと思ってるの。まずは、声楽を専門に勉強なさったのかどうか、というところから質問をはじめていいかしら。

「面白い質問だね。というのは、ぼくは1992年にアメリカに来てボストンのバークリー音楽学院に入ったんだけど、歌うなんて考えたことは一度もなかった。専攻はトロンボーン。ピアノも弾いたけど、歌は想像外だった。なのに卒業直前に、急に思い立って、教授に、卒業試験はトロンボーンじゃなくて歌でいっていいでしょうか、なんて聞いたんだよね。普通、そんなことはあり得ないし許されるはずもないのに、教授が、どうぞ、とあっさり。それでも、そのときにも、先々も歌い続けよう、とか思ってたわけじゃないんだ」

ー はじめは、トロンボーン奏者で身を立てようと思っていたの。

「アメリカに来たのも、バークリーに入ったのも、理由はただひとつで。家族から逃げるため。ベルギーでの生活からできるだけ遠ざかるため。父親はひどい、母親もひどい、なんといっても二人とも生粋のカトリックでね」

「父親は、教会をオーガナイズしていて音楽家でもあった。最初の妻が病死したとき、彼は心の悲しみに蓋をして、たった八か月の間に再婚した。子どもが8人いたから、子どもたちのことを考えてのことでもあったかもしれないけど、おかげで子どもたちも母親の死を受け入れる余裕を与えられないまま、新しい母親を迎えなければならなかった。当然、彼らは新しい母親を憎んだ。それで、その母親が、みんなに嫌われながら生んだのが、ぼく。家庭は、心を、感情を、とことん抑圧する父親によって完全に支配されていた。すばらしいカトリックの家庭、まったく非人間的な家庭だったんだ」

「母親は、虐待されて育った人で、短大卒業後、修道院に入って。十二年、修行したあと、修道女には向いていない、として修道院を追い出されて。おそらく茫然自失だったろうね、そのとき父親に出会って彼の家庭に投げ込まれることになった。ぼくも含めて3人子どもを産んだけど、きつかったね、子どもにとっても」
「兄弟たちは、ぼくによくしてくれた。仲が悪いわけじゃなかった。でも、厳格な父親とヒステリーの母親と、他に性的暴行を受けるという事件があったりもして、ぼくは心身ともにぺしゃんこだった。十代で高血圧だったし」

「だから、そこから逃げられればなんでもよかった。音楽は小さいときから仕込まれていたんで、自然にバークリーに来たんだけど、この学校は競争も激しいし、ここでもぼくは幸福じゃなかった。学校も音楽も、ぼくにとってはアメリカに留まるための手段としての意味しか持たなかったんだよ。代わりにぼくがやってたのはね、セラピー。ありとあらゆるセラピー、ヒーリングを受けまくった。山ほどの精神世界の本を読んだ。それで、1994か5年に図書館でACIM を見つけたんだ」

「カトリックの世界から逃げてきた人は誰でもそうだろうけど、最初にACIM を読んだときは、おどろいて、おそろしくて、放り投げそうになったよ。カトリックの教えに真っ向から対立しているんだから。それでも、必死だったんで、とにかくワークブックをやろうと思った。丸一年、しっかりやった。これが、ぼくを救った。これが、ぼくに許しを教えてくれた。これが、ぼくが人生ではじめて出会ったほんとうに美しいものだった。ACIM を学んで、しばらくして、ベルギーに帰ったんだ。もう大丈夫だろう、以前とまったく違う関係が家族と持てるだろうと思ってね。でも、実際に会うと、やっぱりね」(笑)

「それを乗り越えられたのは、でもやっぱりACIM があったからで。ACIM から絶対離れないようにしてベストを尽くした。家族の誰かに対して感情が起こると、すぐにその感情を許す、ということをね、繰り返しやったの」

「ACIM のフランス語版がもう出ていてね、勉強会に加わって仲間と読んだりもしたな。たった4−5人のグループだったけど」

「2003年、またアメリカに来た。最初はコネチカット、それからニューヨーク。やっぱりACIM の勉強会に出ていた。縁があって、ユニティチャーチで少し歌うようになった。あちこちの教会で自作の歌を歌うようになった」

「翌年、デヴィッド・ホフマイスターに会ったときに、ACIM のワークブックを歌いたいと思いついた。それまで、マントラをサンスクリット語で歌うということはやっていたけど、サンスクリット語だと、歌っている人は意味がわからないわけだよね。ワークブックなら、すっとそのまま心に入ってくるし、やってみたら、ああこれが今ぼくがしたいことだとわかった」

ー あなたは Creative Art という教会で音楽ディレクターをやっていて、毎週日曜日、教会でオルガンを弾いて、ACIM の教えを歌っているでしょう。それって、お父さまがやっていらしたことと同じよね?(笑)。お父さまはあなたが今していることを理解してる?

「父親との間はずっとむずかしかったけど、いつものやり方でずっとヒーリングし続けた(感情がわき起こってきたらそれを許す)。心臓発作で七年前に亡くなったんだけど、本人にとっては苦しまずに何も考えずに死んだというのはよかったんじゃないかと思ってる。それに、ずっとベストを尽くして二人の関係をヒーリングし続けたという手応えがあるから、彼の死は、なめらかに受け入れられたと思う。葬式で弔辞を読んだんだけど、彼に向かって、彼が癒されているということをはっきりと読んだ。それが父親に伝わったのがわかるし、家族みんなにもわかったと感じた」

ー 残ったお母さまとの関係はどうかしら。

「父親よりずっと手強い(笑)。母を正面に置いて、ぼくのなかに湧いてくるすべての感情を見つめて、それから二人が常に愛しあっていることを確認し、許す。正しい見方に自分を移す。ホーリースピリットの見方。それから愛を持ってブレスする。この繰り返しだね。毎日やってるんだよ」

「先月ベルギーで、ACIM のキルタンをやって、母親がはじめて来てくれた。彼女にレイキをしてあげることもできた」

ー これでよくわかった。あなたは、大勢の家族のひとりひとりを癒す役割を負っているのでしょうね。それができるようになるために、家族から遠く離れることも必要だったんじゃないかしら。あなたの書く詩は、ご家族の、特にお母さまの言葉、お母さまが自分で表現したくてできなかった言葉がたくさんあふれているように感じるけれども。あなたの声と言葉は、みんなの声と言葉なんでしょう。

「そのリーディングはおもしろいな。ボストン時代、ルイーズ・ヘイの You can hear your life を読んで(筆者注:彼女は、たくさんの経験から重い荷物を心に抱え、身体にも癌を持った人です。許しによって、癌をふくむすべてから回復したということです。彼女の著書 “You can heal your body”, “You can heal your life” は共に大ベストセラー、邦訳も出ています。非常に簡潔でわかりやすい文章でヒーリングの本質と、心の持ち方が書かれていて、すばらしい本です。ACIM の入門書としても最適です。)その直後から急に詩を書き出したんだ。言葉がどんどん出てきて、それからずっと書いてるんだよ」

ー これからオリジナルの曲がもっと増えていくでしょうね。

「うん、この秋にはまたレコーディングする予定でいる。全曲オリジナルで。小学校の教師として働いていて、それも好きな仕事だけど、今はもっとプレイしたいな。プレイとヒーリング。もっと、もっとやりたい」

ー どうもありがとう。秘密が解けたし、相手を目の前にしてわき上がってくる感情を見つめて、そして許す、というヒーリングはとっても参考になった。もうひとつ、最後に、クリスティンとあなたのパートナーシップが、とってもオープンで信頼し合っていて、それからお互いをよく尊重し合っている感じが、キルタンで伝わってくるのだけど、その秘訣のようなもの、何かあったら教えて。

「ボストンで彼女に会ったとき、前の関係の名残りが心にあって。前の彼女に未練があったとかそういうことじゃないけれども、解決できていないことが心にあったんだと思う。彼女はすぐにそれを見抜いて、前の彼女との関係の整理が完全についていないようであれば、あなたとつきあうことはできない、ってはっきり言ったんだ。彼女の直観と勇気に脱帽したね。それでぼくは一度ベルギーに戻って、数ヶ月、心の掃除をしっかりやって(笑)、それから付き合い出したんだ。彼女にごまかしはきかない。ごまかしを持ち込まない。ごまかしや曖昧な部分を心に持たない。ぼくたちは一緒にそれをやってると思うな」