31.あなた自身の生を救うには

誰もが、自分を救わなければならない。肉体的にも、精神的にも。
あなたは救われたいですか、などと街頭で声をかけられると、どこの勧誘かしらと身構えるより先に、むかっとくるかもしれません。救われたい? わたしがそんなことをあなたと語り合えるほど悠長な人間に見えますか。わたしは、いつだって、今この瞬間だって、休まず「自分を救っていかなければならない」んですけどね! と。わたしたちは、自分を救うために、いつだって必死の思いで生きています。常に、何かしら、自分を脅かすものがあって、それから自分を守り、打ち勝つことにエネルギーを注いでいます。
とはいえ、軽い切り傷や擦り傷で「自分を救わなければ」とは思いません。普通の体質を持っている限りは。消毒して、バンドエイドで保護しておくという作業を淡々とやるだけです。それが不眠症となると、事情が違ってきます。睡眠不足はつらいだけでなく、深いところで健康に害を及ぼすとわかっているので、なんとか克服したいけれど、こちらは一筋縄ではいきません。バンドエイドでは治りません。睡眠環境から変えなければならないかもしれません。寝苦しいなら空調が大事です。空気清浄器や加湿器が要る場合もあるでしょう。そしてサプリメント。医者。睡眠薬を飲み過ぎないよう注意。寝酒が習慣にならないように。ストレスのある対人関係を解決する。仕事を変わる。その他いろいろ。
これは、間違いなく「自分を救うための計画」です。
切り傷や擦り傷に「救い」が要らないのは、わたしたちは、肉体の、自然治癒の力が、それを容易に癒すことを知っているからです。自分の肉体の、その力に自信があり、心配無用とわかっている。だから救いの手を差し伸べるに及びません。けれどわたしたちは、肉体が、不眠症を自然に解決してくれるとはまったく思っていません。なぜなら、不眠症であるということは、自分の肉体が、治癒の力を示すどころか、その力を裏切って、無力である以上に、自分に牙を剥いているのですから。わたしたちは、不眠に対して、脅威を覚えます。そう、自信を失っているから、「救いの手が必要」になるのです。わたしたちは、自信があることに関しては「救いを探す」ことから自由でいられ、自信がない点が出てくると、救いを求めるわけです。
それにしても、わたしたちは、どれほどの自信を持っているでしょうか。自然治癒を疑わず、救いを求める必要を感じず、自身の力を、当たり前のこととして受け入れられるのは、小さな切り傷、擦り傷以外にどれほどのものがあるでしょうか。
自信がない。つまり、自分にそれを解決する力があるとは思えないこと。その自由がないと感じること。その部分がある限り、わたしたちは、日々、救いを求めるだけでなく、救いを得ていかなければなりません。だから、どこに救いがあるかを、間断なく考えます。”考える”とは、救いのためのコンセプトを見つけることなのです。
気分が落ち込んでいれば、気分転換の方法を”考える”。ものごとがうまく運ばなければ、その原因を”考えて”自分を納得させる。社会に自分が適合できない悩みがあれば、その理由を過去に探す。不条理な被害に遭えば、どこに非があり何に怒りをぶつけるべきかを”考える”。これらはすべて、自分を救うためにやっていること。 そして、その実、まったく救いになっていないことの連続です。目先の問題にあわてふためいても、結局のところ、自信のなさは居座っているのだから、何をどう考えても、それは自分をなんとか守るための応急処置にしかなりません。どこかに究極のコンセプトはないものか、それさえあれば、それさえ知れば、「怖いものなし」の存在になれるという考え方はないものかと、マジックを探し求めても、そんなものはありません。「救われたいですか」と問われてうなずき、どこかへついていっても、何も見つかりません。
マジックはないのです。でも、根本的な救いを必死に求めるならば、ほんとうに救われることを心から願うならば、目先の問題解決に奔走するうちにすり切れ疲れきる人生とは、別なものが見えてきます。
それは、たとえば、このようにきっぱりと思うことです。
この世界で起こるあらゆることから自分を守り、救う、という考え方をやめる。
この世界で起こるあらゆることは、自分の救いの機会としてとらえる。
つまり、日々起こる出来事や出会いを、それが何であっても、全部、自分の味方だと見るのです。「何か、自分に良いことを差し出してくれるためにこのことは起こっている。今はまだ、それが何だかわからないけど、楽しみに待っていよう」と思うことです。そのように、楽しみながらインテリアを変えた寝室は、眠りの質だけでなく、ロマンティックな贈り物も運んできてくれるかもしれません。
せっかちに結果を求めようとする自分をなだめ、ほんの少し、辛抱強くなってみましょう。すると「まもなくやってくる贈り物」に対する信頼が、心に育ってきます。そしてその信頼の気持ちが、そのまま自信になっていくのを喜んで見守りましょう。

(初出誌 Linque Vol.32発行:国際美容連盟2011年3月)