カンファレンスが終わり、CRS で日本からいらしたみなさんと過ごし、みなさんがニューヨークを発たれた直後、訃報が入りました。船戸与一さんです。

船戸さんの小説世界は、暴力、殺戮、血しぶき、、、の連続ですが、お金と繁栄を追いかけ、快楽をむさぼり、どうでもよいことに意識が散らばるばかりの(本欄「世界一有名な写真」で書いたとおり)(かく言うわたしも「どうでもよいこと」をぐだぐだと書いていますが)エゴによってずんずん進んでいく”世界史”の底に、静かに、豊かに、滔々と流れる澄んだ魂の川があって、この作家は、その川を見つめ続けていたと感じています。その川から決して目をそらさない、という姿勢こそ、聖戦ともいうべきものだと思っています。表面を眺めるのではなく、その奥の魂の川の流れを見る、そこにあるほんとうの世界史、ほんとうの”今”を見る、ということをなさっていた方だと。

いつかお会いしたい、お会いできるだろうと思っていたので、無念でした。20代の終わり頃、どこかのパーティ会場だったか、新宿の飲み屋だったか、忘れましたが、お見かけしたことがあるのに、その頃のわたしは、氏とつながるアンテナを持っていませんでした。遅れてきた読者であると同時に、新刊を待っては読むという読者でもなく、ぽつぽつと、そのときどきに気持ちに触れるテーマを読んできたのですが、例外なく、読み始めると、その小説(ノンフィクションも含めて)の舞台で大きな事態が表面化するのです。イスラム国のこともそうでした。世界のさまざまな地の「ほんとうの魂の在り処を見ろ」と氏に学ばせてもらっているようでした。氏の作品は小説なので、読みながら、「これはホントかな」と、???が心に登場することも少なからずあり、そんなときは他をあたって調べますから、氏は、わたしにとって、船戸学校の先生でもあったわけです。

 The holiest of all the spots on earth is where an ancient hatred has become a present love.

(地上におけるもっとも神聖な場所とは、古くから続く憎悪が、現在の愛にとって代わった場所のことです。)

この、今年のカンファレンスのテーマを、氏が示してくれた魂の流れ、静かな聖戦とともに心に抱きつつ、遠方からカンファレンスにいらしてくださった仲間たちの、無事のご帰宅を祈っていました。みなさん、速やかに旅のお疲れがとれますように。

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